予想外の恋愛
「内容はなんであれ自分の店を持つってのは僕も憧れてたから、そこで雇ってもらうことになった。初めはバイトからだったけどね。
そしたら出逢っちゃったんだよなあ、コーヒーを淹れる奥深さと楽しさに」
話しながら店長は、豆を取り出してコーヒーミルで挽きだした。
ゴリゴリというその音が、いつからか私にとっても心地いいものに変わっていた。
「それからは夢中でこの世界のことを勉強して、先輩よりも美味いコーヒーを淹れることを目標に頑張った。
正社員の頃よりも給料は低いし、土日も関係なくなったのに、毎日が充実してた。
いつの間にか目標は変わっていって、念願のこのカフェをオープンした時は嬉しくて震えた。もうここは僕の城みたいなもんかな」
豆を挽き終えると、ドリッパーに紙をセットしてお湯を注ぐ。
店内に香りが広がった。
「ナギサちゃんが初めてここに来た時の顔は忘れられないよ。昔の僕と同じ、諦めたような…投げ出したような顔してた」
「じゃあ私がここで働きたいって言って、快くオッケーしてくれたのは…」
「うん、自分と似てたからだね。それから、何かを求めてここに来たんだろなって思ったから」
店長が出来上がったコーヒーを二つのカップに注ぎ、一つを私の前にコトンと置いた。
「飲んでごらん」