予想外の恋愛


目の前のカップからは柔らかく湯気が出ている。
そっと持ち上げて口を付けてみる。


「………おいしい」


嬉しそうにニッコリと笑った店長が自分の分のコーヒーを飲む。


「もしナギサちゃんがこれから先、もっとこの世界の知識を付けたいとかお店を持ちたいとか思ったら、出来る限り協力するから。まだ若いんだから何だって出来るんだからね」

「は、い…」


将来のことなんて全然考えていなかった。

ただなんとなく良さそうな会社に就職してあっさり辞めて、ここでバイトを初めて、今の状況に何も不満はない。

だけど確かにずっとこのまま、ここで甘えているわけにはいかない。


「…とりあえず、私が淹れたコーヒーが薄い原因から教えてもらってもいいですか…」


そう言うと店長が声を上げて笑った。


「そうだな…多分、挽き方が甘かったかお湯の温度が低かったかじゃないかな」


とても尊敬している店長。
その過去は自分と似ていた。

きっと今、幸せな人生を歩んでいる世の中の人みんな、何かしらの辛い経験をしてきたからこそ幸せになれたのだろう。

知っている辛さの分だけ、幸せに思えることが増えていくのだろう。



今の私は、この仕事以外したいと思わない。
それだけは確かだ。




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