予想外の恋愛



「き、昨日、その…」

「あーわりい、俺お前が来てるとき頭朦朧としててあんま覚えてねえんだよ。お粥がやたら美味かったことは覚えてんだけど…他にも色々してくれたんだよな?でこに冷えピタ貼ってあったし」


今この男、何と言った?
覚えてない?


「覚えてないんですか?全然?お粥だけ?」

「…なんだよ、俺なんか変な寝言でも言ってたか?」

「いや、寝言は別にたいして…」

「だろ?あ、そういやお前風邪うつってねえか?俺今日起きたらわりと全快だったけど」


風邪がうつっていようがそんなことどうでもいい。

覚えていない?
あんなに私の心臓を暴れさせた大事件を?
じゃあなんだ、あれはただの事故とでもいうのか。

馬鹿みたいだ。
私一人悶々として。


「…私の気持ちを返せ!」

「うわっ!…うるせーな急に叫ぶんじゃねえ。俺の耳がつぶれたらどうする」

「知らない!さいっあく!」

「一体何にそこまで怒ってんだよ。せっかく人が昨日のお礼の電話をわざわざしてやったってのに」


わざわざの部分を強調してそう言う朝田さん。本当に何も記憶にないらしい。


「…わかった今度また飯連れてってやる。それで機嫌なおせ。な?」

「…美味しいところじゃないと嫌ですからね」

「へいへい」


ご飯に行く約束をしただけでちょっとだけ機嫌が良くなってしまう私は、そうとう単純だ。

だけどこうして、朝田さんがすっかり冷たい態度じゃなくなったことは嬉しかった。
近藤くんのことを話した内容も忘れているのかと思ったけれど、普通に接してくれるようになったのなら覚えているのかもしれない。




< 156 / 218 >

この作品をシェア

pagetop