予想外の恋愛
「とにかく、お前も風邪うつってるかもしれねえんだから気つけろよ。俺はお前みたいにお粥作ったりしてやれねえからな」
「期待してませんよ、そんなの」
鼻で笑った朝田さんがじゃあな、と言って通話が終わった。
元気になったのならいい。
とてもよかった。
だけど重要なところを忘れている…。
人の唇を奪うだけ奪っておいて覚えていません、なんて。
そんな都合のいい話はナシだろう。
あの時、もちろん私はすごく驚いたし戸惑った。合意の上ではなかった訳だし無理矢理の行為だった。
だけど、嬉しかったのに。
…なかったことに、すればいいの?
私の胸の内に留めておけばいいの?
それとも忘れてしまうべきなの?
誰も知らない、あの夜の出来事。
忘れたくても忘れられないだろう。
「最低最悪…」
忘れるぐらいなら私の記憶も消して欲しかった。
そう思わせるほど、ずるい男だ。
近付いたと思ったら手をすり抜けてどこか遠くへ行ってしまう。
私はまたその背中を追いかけて追いかけて、追い付いたと思えば今度は追い抜かしてしまって、後ろを振り返ってみればニヤッと笑っていて…。
なんとも厄介な男を好きになってしまった。
存在そのものが、ぐるぐる回り続けて抜け出せない迷路みたいだ。
一度入るとなかなか出口は見えない。抜け出せるときが来ても、きっと忘れられない。
圧倒的な存在感と引力に、一体私はいつから捕らわれていたのだろう。