予想外の恋愛
「俺のほうと全然味が違うよ。見てる感じでは二つとも同じように淹れてたのに…」
「そ、そんな…」
「…ふざけんなよ」
そう言った朝田さんがガタッと音をたてて席を立った。
「誰が泣きながら淹れたコーヒーなんて飲むかアホ。なんで俺に対してはそんな顔しか出来ねえんだよ!」
「あ、朝田!落ち着いて…」
泣きながら?
私は泣いてなんかいない。
だけど何も反論出来なかった。
朝田さんのことを考えると辛いのは事実だから。
「…俺、お前のことちょっとわかった気でいたけど勘違いだわ。お前が何考えてるかさっぱりわかんねえ」
そう言い残すと彼はカバンを持って店を出て行った。
店内に響いたドアベルの音がとても虚しく聞こえた。
引きとめることも追いかけることも出来ずに立ち尽くす私に、中島さんが声をかけた。
「ナギサちゃん。あいつが言ったことはあながち間違いじゃないよ。本当に今にも泣き出しそうな顔でコーヒー淹れてたんだ。いつ涙が目から溢れるかってハラハラしたぐらい」
「私…そんなつもりじゃ」
「朝田はそんなナギサちゃんの顔をずっと見つめてた。その朝田も、つらそうな顔してたよ。
…そんな顔するのは、朝田のこと好きだからなんだよね?」
こくっと首を縦に振った私をみて、中島さんは頷いた。
そして私の頭に手を乗せて優しい笑顔を浮かべた後、朝田さんを追いかけるように店をあとにしたのだった。