予想外の恋愛
…今でも思い出すと少し恥ずかしくなる。
私を見下ろす朝田さんのいつもと違う表情は、いつまでも脳裏にこびり付いている。
グロスなんか付けてんじゃねぇ、とでも言い出しそうに唇に触れた親指は、どんな意志を持ってそうしたのだろう。
気にくわなかった?
似合ってなかった?
近藤くんにキスしそうな距離まで迫られたことよりも、朝田さんにそうされたことのほうがドキッとしたことに戸惑った。
だけどそれは、普段の朝田さんがものすごくヒドくて最低だからだと理由付けした。
いつでも喧嘩腰で、罵り合って、触れたこともないような人だから。
いきなりあんなことされたらドキドキするのも当然だと。
…二次会で近藤くんに指名されたとき、すごく驚いた顔で私を見ていた。
どう思っただろう。
もしかしたら、あの人が元カレだって気付かれたかもしれない。
もしそうなら、次に会ったときに散々いじられるのが目に見えているから憂鬱だ。
休憩を終えてから閉店まで、ドアベルがなる度にもしかしたらと思って振り向いた。
そんな自分に驚いた。
だけどそれも、中島さんの笑顔に癒されたいからであって、別に朝田さんが来るのを期待している訳ではない………。