予想外の恋愛
「なにをそんなに怒ってるんですか!いつもと違って身に覚えがないです!」
「やかましい!いつも身に覚えがないようにしやがれ!」
「そっちに問題があると思いますけど!」
「はあ?やっぱお前最低女だな!」
そう言われた瞬間、胸がチクっとした。
「あ、あんたに言われたくない!」
声が震えた。
何故か目頭が熱くなってきて、とっさに背中を向けた。
「…おい、どうした?」
「仕事に戻るんですー!冷めないうちにコーヒー飲んでたらどうですかー!」
「ちょっと待て」
歩き出そうとした私の手首が掴まれた。
そのことに驚いて、朝田さんの手のひらの力強さを感じて、泣きたかった気持ちが一瞬でどこかへ行ってしまった。
だけど今度は気恥ずかしくなってきて、その手を思いっきり振り払ってしまい、パシッと乾いた音がした。
「あ…」
嫌なわけじゃなかった。
なのに、見透かされそうで。
朝田さんが振りほどかれた自分の手のひらを見つめた。
「ご、ごめ…」
「…ちっ。もういい」
「あの」
「さっさと仕事戻れ」
それ以上何も言わずにコーヒーを啜る朝田さんに、私も何も言えなくなった。
「ごめんごめん!朝田、電話部長からだったよ。こないだの引き継ぎの件で…って。
…なに?どうかしたの二人共」
戻ってきた中島さんが、重苦しい空気を感じ取ってキョトンとしている。
「…なんでもありません」
「え?ちょっとナギサちゃん?」
その場にいられなくなった私は逃げるようにカウンターに戻るしかなかった。
今までも散々怖い顔やイラついた顔を見てきたのに、あんな顔は初めて見た。
あんな、傷付いたような顔は。