終電
阿鼻叫喚の行進にも関わらず、相変わらず聞こえるのは、鎖を引きずる音だけだ。

その行列の中に見覚えがある男がいた。

ああ、そうだ。見覚えがあるはずだ。ここ数年、世間を賑わし、異例の早さで死刑になった、連続児童殺傷犯人だ。

生前、あれだけふてぶてしい態度で、反省の色も見せなかった男が、鎖で貫かれた腹の痛みに、涙と鼻水で汚れ、ダラシ無く口からヨダレを垂らす、苦悶の表情が痛々しく思えた。

ところが、これほど陰惨な状況にも関わらず、憐れだと思える彼らの叫び声は何故か一切聞こえない。

もう一つ、走行音が聞こえないと思っていたが、いつの間にか電車は停車していた。

外は、もちろん、終点の駅とは似ても似つかない場所だった。

川岸か湖畔のような水辺ではあるが、他は果てない砂漠が広がっていた。

その水辺に一人の白髪の老婆が杖をついて立っており、ジッとこちらを見つめている。

やがて、片側の電車のドアが開き、鎖で繋がれた憐れな亡者達が、黒幽霊達に追い立てられ、外に出される。

ゾンビや骸骨だった車内の乗客は、いつの間にか元の顔色の悪い人間にもどっていた。

皆、静かに成り行きを見守っていると、小さな男の子が突然、外に飛び出そうとした。

その瞬間、白いワンピースの女が、子供を抱き止めた。

隣にいた可奈が咄嗟に行動したのだった。

ただ、子供はなんの抵抗もなく、可奈の腕に抱かれていた。

子供を抱いたまま可奈は席に戻る。

しかし、やはり可奈も子供も、他の乗客同様、車外の様子に釘付けのようである。

車外では、降ろされた亡者を白髪の老婆が杖で叩き始める。

黒幽霊達は亡者の衣服を剥ぎ取り、枯木に吊す。

老婆は、死に神のような黒幽霊から、亡者の鎖を受け取ると、舵のない舟にスーッと乗り込みそのまま出した。

当然、亡者達はそのまま川に引きずり落とされ、溺れながら、舟に牽引されて行った。

しばらくすると、発車の笛が聞こえ、電車の扉が閉まった。

電車は再び動き出す。

すぐにまた、トンネルに入ると、薄暗い車内の照明がつく。
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