終電
悲しい事実
子供はまだ、可奈に抱かれたままであった。

可奈はゆっくり話し出す。
「さっきの人達は…。」

驚いている自分に、一旦話を止め、子供を膝から降ろした。

定位置なのか、子供は可奈の向かい側の席に戻った。

「大丈夫よ。話しをしても。もう死に神達もいないから。」

顔色は悪いが、可愛い笑顔で話し始めたので、なんだかホッとした。

周囲の乗客も、確かに顔色は悪いが、何か穏やかな表情をしている。

さっきまで、骸骨やゾンビのような化け物だったとは思えない。

それどころか、あんなに恐怖を感じていた乗客達をなんとも思わなくなっている。

「死に神に連れて行かれた人達は、生前、人間や動物等に酷い事をしてきた人達…。多分、あの大きな川を渡ったら、地獄に到着すると言われているの…。」

可奈は少し淋しそうな顔をした。

「つまり、彼らは地獄に落とされた、という事?」

「そう言う事になるわ」

余り、確かめたくはなかったが、希代の悪魔とまで言われた死刑囚が引きずられて行った事を考えれば、納得せざる負えない。

「ここにいる乗客は、殺されたり、事故で亡くなったりした人達が大半。みな、成仏できず、この電車に乗っている。」

隣にいた品の良い老人が話しかけてきた。

「現世で殺した犯人が捕まるとか、自分の遺体が発見されるとか、現世に未練が無くなった時、我々は初めて電車を降りる事ができるのだ…。」

老人は深い溜め息をついた。

「現世に未練…。」

あらためて、可奈を見た時、自分の幼い記憶を思い出した。

近所にいた優しくて綺麗なお姉さん。

ある日を境にいなくなってしまい、お姉さんの両親が必死に近所を捜し回っていた。

警察官も駆け付け、大騒ぎになっていたが、幼い自分には誰も訳は教えてくれない。

歳月と共にそんな騒ぎの事も、お姉さんの事もすっかり忘れていた。

「思い出してくれた?優ちゃん。うれしいわ…。私の遺体は見つからないの…。誘拐されて殺されて、最後はバラバラにされて粉々にされたの…。」

「だから、私はずっとこの電車から降りれないの…。犯人はとうの昔に地獄へ落ちてるけどね。」

悲しそうに笑っている。

その可奈の元にさっきの子供が駆け寄ってきた。

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