終電
「そうだったわね。あなたとは、もうお別れだったわね…。」
彼女は子供を優しく抱擁しながら頭を撫でた。
「お別れ?」
「そう、お別れ。さっきの亡者の中にこの子を殺した両親がいてね、かなり酷い虐待をこの子にしていたらしいの。どうやら二人同時に事故死したのか、すぐに地獄へ落とされた。そのおかげでこの子はこの電車を降りれるの。」
隣の老人も子供を抱き上げる。
「このお嬢さんが、この子を止めてくれてよかった。一緒に地獄へ連れて行かれるところだ。」
老人も愛おしそうに子供の頭を撫でる。
「貴方も次の駅で降りなければならないわ…。でも行き先はこの子と違うけれどね…。」
行き先…。
今更ながら、自分は何故この電車に乗っていたのかという不安が過ぎる。
明らかに自分は、あの世と言われる空間にいるらしいが、では何故?
朝から仕事して、残業して、終電まで飲んで…。
いや、待て、飲んでいたって、何処で?
絡まれたオヤジがいたはずだが、その回りの客やら店の感じが思い出せない。
「終電に乗らねば」
そう思ったからこそ、急いで駅に向かっていたはずだ。
ホームで寝過ごして、臨時便に…この電車に乗ったのだ。
ふと、電車が減速を始め、光の中のような空間に出た。
再び電車の一切の騒音が聞こえなくなる。
静かだが、さっきの張り詰めたような、澱んだ空気とは違う。
温かで明るい。不安など何処にも感じられない、なんと心地よい空間なのだろう。
やがて電車は光の中のホームに滑り込んだ。
ホームには一列に並んだ、天使というのか天女というのか、真っ白な衣を纏った人達が待っていた。
各車両のドアが音もなく開く。
さっきの子供を含め、あちこちの車両からも、何十人も降りて行く。
可奈と老人は降りない。
「言ったでしょう?私達は降りれない…。」
悲しそうに可奈は笑った。
再びホームに目をやると、自分を呼んでいる天人がいる。
その瞬間、まるでTV映像のように、その天人の頭上に、酸素マスクを付け、ベッドに横になっている自分が見えた。
仕事も飲みも行っていない、自分は死の淵をさ迷っているのだ。
「さあ、優ちゃん!戻るのよ!」
可奈が後ろから叫んだ。
彼女は子供を優しく抱擁しながら頭を撫でた。
「お別れ?」
「そう、お別れ。さっきの亡者の中にこの子を殺した両親がいてね、かなり酷い虐待をこの子にしていたらしいの。どうやら二人同時に事故死したのか、すぐに地獄へ落とされた。そのおかげでこの子はこの電車を降りれるの。」
隣の老人も子供を抱き上げる。
「このお嬢さんが、この子を止めてくれてよかった。一緒に地獄へ連れて行かれるところだ。」
老人も愛おしそうに子供の頭を撫でる。
「貴方も次の駅で降りなければならないわ…。でも行き先はこの子と違うけれどね…。」
行き先…。
今更ながら、自分は何故この電車に乗っていたのかという不安が過ぎる。
明らかに自分は、あの世と言われる空間にいるらしいが、では何故?
朝から仕事して、残業して、終電まで飲んで…。
いや、待て、飲んでいたって、何処で?
絡まれたオヤジがいたはずだが、その回りの客やら店の感じが思い出せない。
「終電に乗らねば」
そう思ったからこそ、急いで駅に向かっていたはずだ。
ホームで寝過ごして、臨時便に…この電車に乗ったのだ。
ふと、電車が減速を始め、光の中のような空間に出た。
再び電車の一切の騒音が聞こえなくなる。
静かだが、さっきの張り詰めたような、澱んだ空気とは違う。
温かで明るい。不安など何処にも感じられない、なんと心地よい空間なのだろう。
やがて電車は光の中のホームに滑り込んだ。
ホームには一列に並んだ、天使というのか天女というのか、真っ白な衣を纏った人達が待っていた。
各車両のドアが音もなく開く。
さっきの子供を含め、あちこちの車両からも、何十人も降りて行く。
可奈と老人は降りない。
「言ったでしょう?私達は降りれない…。」
悲しそうに可奈は笑った。
再びホームに目をやると、自分を呼んでいる天人がいる。
その瞬間、まるでTV映像のように、その天人の頭上に、酸素マスクを付け、ベッドに横になっている自分が見えた。
仕事も飲みも行っていない、自分は死の淵をさ迷っているのだ。
「さあ、優ちゃん!戻るのよ!」
可奈が後ろから叫んだ。