月の華
「嘘…でしょう。」
「……」
無言で何も答えてくれない上島医師。
こんな状況で嘘でした。なんて冗談でも言えないんだけど。
何でよッ。
「目を覚ましても現役に戻れるか。」
「もぅ…一緒に」
塔へ行くことも無くなるの?
あんな冷酷で…でも、何よりも気にかけていて、マーテルのコトも溺愛していて。
レックスよりも先に逝くの?
「…ゴメンよ急患だ。」
上島医師は呟くと病棟へと走って行った。
私は呆然と宛もなく歩こうとした。
「ジェミニ。」
優しい声。
「おじいちゃん。おばあちゃん。」
「龍はまだ。」
「はい。」
俯く私におじいちゃんは。
「祇園精舎の鐘の声____
諸行無常の響きあり____
沙羅双樹の花の色____
盛者必衰の理を表す____
おごれる人も永からず____
ただ、春の夜の夢のごとし____
たけき者もついには滅びぬ____
ひとへに風の前の塵に同じ____」
目を瞑りつらつらと言っていくおじいちゃん。
「平家物語ですか。」
「この意味は分かるな?」
「はい。」