契りのかたに君を想ふ
沖田「山南さん、あなたがいなくなってはここはおしまいです。新撰組は近藤さん、土方さん、山南さんの3人を基軸として出来てます。その重要な3本の軸のうち1本がなくなってしまっては安定感のない、いつもグラついている危ない組織となってしまいます」
幼い頃から山南を兄のように募っていた沖田。
表情には出さずとも心に傷を負ったに違いない。
山南「皆さん良いのですか…?剣もまともに握れず、伊東さんよりも要領の悪い私なんかがここにいても……」
山南が絞り出すようにして言った後、今までずっと目を瞑り黙っていた近藤が口を開いた。
近藤「山南さん、あなたにはガッカリしたよ」
言葉は厳しくとも山南を思っての近藤の声。
それは山南を含め、誰もが分かっていた。
そして近藤が目を開くと私達はギョッとした。
何故なら藤堂よりも遥かに大粒な涙をボロボロと流しているからだ。
そして何を思ったのか突然山南の手を握り出した。
近藤「そんなに俺たちが信用できないか?!試衛館時代からずっと長い間 苦楽を共にしてきた俺たちが信用できないのか?!例えあなたが俺たちを嫌ったとしても、俺たちが山南さんを嫌うなんてことは絶対ない。俺たちはいつだって山南さんが必要なんだ!!」
普段滅多に泣くことがない沖田や原田、そして近藤同様に沈黙を続けていた斎藤の頬にも涙が伝っていた。
もちろん土方も。
鬼の目にも涙とは正にこの事か。
井上「山南さん、貴方には息子のようにずっと見守ってきた平助がいる。それに弟の様に可愛がっていた総司も。いくら大人といえどもまだ二十を越えた若僧だ。知らないこともたくさんある。それを貴方が教えてあげなくてはならない」
諭すように言う井上の言葉はきっと…いや、確実に山南の心に届いただろう。
その後のことは分からない。
私に入る隙間などないと感じ、部屋を退室したから。
でも一つだけ分かるのは、壊れかけていた幹部の絆が修復されたということだった。