契りのかたに君を想ふ
近藤「じゃあ歳、行ってくる」
土方「おう。それより、本当にあいつを連れて行くのか?」
近藤「あぁ。お前も話を聞いただろう」
土方「だが……、芹沢さん達がいつまでもいたら近藤さんは大将になれねぇ…。それに京の人達からの信頼も得られねぇ。会津公からの達しが来なくてもそろそろ潮時だろう」
近藤「…………………俺は…誰かを犠牲にしてまで大将にはなりたくない」
土方「近藤さん………」
近藤「じゃあ、行ってくるよ」
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近藤「そう言えば、最近気になっていたんだが……絵美君はちゃんと眠れているのかい?」
絵美「近藤さん、絵美で良いですよ」
近藤「そうか?じゃあ絵美、最近よく眠れているのか?目の下の隈が目立つぞ」
絵美「……あまり眠れてないですね…」
近藤「八木邸で何かあったのか?」
絵美「……………んー、まぁ…」
心配をかけたくなくて適当に濁すと近藤は少しだけ眉尻を下げた。
近藤「絵美、何か困っていることがあるのなら何でも話してくれ。俺はお前を娘のように思っている。お前も俺を父のように思って良いんだ」
絵美「お父さん…か……」
近藤「どうかしたか?」
絵美「あ、いえ!その…毎日のように朝は早くからお梅さんに連れまわされているし…それに……夜中、屋根から視線を感じるんです」
近藤「視線を?」
絵美「はい。見張られているみたいです」
近藤「………………」
絵美「あ、あんまり気にしないでくださいね!そんな気にしていないんで!」
近藤「そうか…?」
絵美「はい!あ、あれですか!?」
近藤「あぁ、そうだ」
絵美「広い……」
会津藩邸に着くと早速足止めを食らった。
門番「そこの女!笠を取れ!」
絵美「お断りします」
門番「何故だ!取らないのなら松平容保公には会わせられぬ!」
絵美「お願い致します。武器は何も持っていません」
門番「武器を所持していないからと言って、怪しい者を松平公のお屋敷に通すことは出来ぬ!」
近藤「俺からも頼む。しっかり見張っているから」
門番「コイツと同行して来たお前の言葉は何の説得力もない!」
近藤「きっと松平公もこの者の事を気にいると思います!」
門番「ふんっ。こんな小娘のどこを気にいると言うんだ!」
絵美「(カチンッ!!!)こ、小娘…ですか……?」
近藤「ッッ!!ま、まぁまぁ絵美!落ち着きなさい!」
絵美「近藤さん…一体何を言ってるんですか……。フフフ。私はこんなにも落ち着いているじゃないですか」
近藤「(一体これのどこが落ち着いているんだ。こっちは冷や汗が止まらない!!)」
近藤の胸中など露知らず、絵美のイライラは募るばかりだった。
門番「兎に角、松平公にお会いになるのであれば近藤一人だ」
絵美「(ピキッ)こっちは人の命が掛かってんだ!!!!さっさと中に通せっっっ!!!!」
とうとう怒りが達した絵美は門番の胸ぐらを掴んでしまった。
近藤「絵美!!!その手を離すんだ!!!」
そんな時
「何だね一体。随分と騒がしいな」
絵美「(誰だよ…)」
近藤・門番「っっっ!!!!松平公!!!」
絵美「えっ……」