契りのかたに君を想ふ
それから更に時間が経った。
芹沢「帰る」
土方「お帰りですか?籠を用意しましょう」
芹沢「嫌、構わん。最後くらい自分の足で帰る」
最後。
確かに芹沢さんは今、最後と言った。
既にあの人はもう、自分の寿命に気づいていたんだ。
芹沢「近藤、後は頼んだ」
近藤「はい」
芹沢「胡桃沢、」
絵美「私…ですか?」
芹沢「これをやる。後で読んどけ」
芹沢さんがくれたのは2通の手紙だった。
私は溢れそうになる涙を必死に堪えて力強く頷いた。
芹沢さんが部屋を出て行くと私は手紙を開けた。
差出人は芹沢さんとお梅さんからだった。
私は中身を確認しようとはせず、走り出した。
廊下を猛スピードで走り抜けるとフラフラとゆっくり歩く芹沢さんが見えた。
絵美「芹沢さん!」
芹沢「……どうした」
敢えて側に行こうとせずに私は声を張り上げて芹沢に精一杯の気持ちを伝えた。
絵美「私、ここに来てから何度も死のうと思いました!でも死なずにここまで来れたのは芹沢さんやお梅さん達のおかげです!本当にありがとうございました!!」
芹沢さんは小さく笑うと私とは対照的に小さな声で言った。
芹沢「生きろ、生きるんだ」
本当にその声はとても小さくて聞き逃してしまいそうな声だったけど、私にはしっかりと聞こえていた。
私が敢えて近づかなかったのは、涙と鼻水でグチャグチャになった顔を見せたくなかったからだった。
「絵美、」
絵美「平助…」
藤堂「部屋、戻ろう」
絵美「……うん」
藤堂「止めないの?」
絵美「何を?」
藤堂「芹沢さん…」
絵美「止めたい…けど…っ……、普段お世話になってる…みんなに迷惑……かけられないじゃん…っ?」
藤堂「絵美は強いな」
そう言うと藤堂は絵美を抱き締めた。
絵美「……ふっ…うわぁぁぁぁあん…!」
私が泣き止むまで平助は何も言わず、ずっと背中をさすってくれていた。
絵美「ジュルッ....ありがど…、平助」
藤堂「うわっ、凄い顔!」
絵美「笑わないでよ…」
藤堂「ごめんごめん。じゃあ皆のところに戻ろう」
絵美「うん」