契りのかたに君を想ふ
「ヤァッ!」
「一本っ!!」
「面っ!!!」
道場に入ると汗臭い男共が声を張り上げながら稽古をしていた。
すると私に気づいた男達がヒソヒソと話し始めた。
「何で道場に女がいるんだ?」
「すげぇ、黄金色の髪だ!」
「慶喜様も物好きだな」
ま、まぁ私自身の悪口はないみたいね。
てっきり異人は出て行けーーーー!
ってな感じで追い出されるかと思ってたけど。
新撰組の人達よりは関わりやすそうね。
春「じゃあ絵美、私と勝負してみましょう」
絵美「えっ!?春って剣使えるの!?」
春「二条城に勤める女を嘗めないでよね。雪だって物凄く強いのよ?ここの女達の中でも極めて優秀な者を慶喜様は絵美の待女に選んだんだから」
絵美「そうだったんだ…」
これじゃ私本当のお姫様みたいじゃない!
別に守ってもらわなくたって自分の身くらい守れるのに。
春「さっ、始めるわよ!雪、審判お願いね」
雪「両者構え、始め!」
雪の掛け声と共に春の表情が激変した。
先程のような穏やかな笑顔は消え、鋭く冷たい目付きに悪寒が走るような笑み。
あまりの気迫に一瞬だけ体が硬直してしまった。
春「来ないの?」
挑発するように私に問いかける春はとても恐かった。
馬鹿な私は素直に挑発に乗り春に向かって走り出した。
絵美「ヤァッ!!!!」
しかし春は難なくかわし、ガラ空きだった胴に打ち込んだ。
パァァァァァン!!
雪「勝者、春!」
絵美「強い…。悔しい!!」
春「絵美、貴方柔術が得意でしょう?」
絵美「え、何で分かったの?」
春「今の試合で何度も手や足を出そうとしていたでしょう。絵美は分かりやすいわ」
絵美「凄いね。全部お見通しだ」
春「じゃあ次は実戦式でやりましょう」
絵美「それ面白そう!!雪!!!!」
雪「はいはい、構えて、始め!!」
二回戦目は私から攻めた。
少しも余裕を与えまいと打ち込みまくるが余裕な表情の春。
すると、
絵美「ぅぐ…っ……」
一瞬の隙にしゃがみ込んだ春は私の鳩尾に拳をめり込ませた。
思わず怯んだ私に容赦無く攻撃を続けるが何とかギリギリのところで全て避けた。
一度距離を取り、竹刀を捨てると春も同じ様にして竹刀を床に放り投げた。
そして同時に走りだす。
剣術では私のボロ負けだったが柔術なら互角、もしくは絵美の方が強かった。
開始からおよそ四半刻。
両者ともボロボロだった。
春「絵美は剣術よりも柔術の方が強いのね」
絵美「何?もう疲れたの?」
春「そんな訳無いでしょう!!!!」
自分は疲れてないかのような口ぶりだがこっちも既にクタクタだ。
次で終わらせる。
春が走り出すと私は一番得意な技を決めた。
春の首に自身の足を巻きつけて遠心力を利用して床に叩きつけた。
雪「そこまで!勝者絵美!!」
「すげぇ、見たかあの技!」
「あの黄金色の髪の女やるな」
「やべぇ、惚れる!!」