クールな彼の溺愛注意報
けれど正体不明の視線から逃れられたことで、あたしは油断していた。
「……紫乃?」
家まであと数メートル。
という距離で、ちょうど前からやってきた葵衣とばったり会ってしまった。
お互いを名前呼びにすることになって、数日。
葵衣の声で発される“紫乃”には、まったく慣れる気配がない。
あたしも“二宮くん”と呼びそうになることはなくなったけれど、いまだに名前を呼ぶときちょっと緊張しちゃうし。
「お、おかえり、葵衣」
「ただいま。……なんでそっちの方向から帰ってきてんの?」
「えっ!? いや、えっと、その」
かばんから鍵を取り出しながら、ついびくっとしてしまった。
完全に油断していたせいでうまい言いわけも見つからず、挙動不審になるあたし。
「な、なんとなく……かな?」