クールな彼の溺愛注意報
もちろん、拓海くんたちの家がいやなわけじゃない。
でも、こんなのどう考えても納得いかないよ!
羽山の家が、いまのあたしと葵衣が住む家のはずで、帰る場所のはずなのに!
「羽山さん。落ち着いて」
軽く肩をたたかれて顔をあげると、いつのまにかとなりに柊木くんが立っていた。
おどろいたあと、あたしは顔をうつむかせた。
「柊木くんも……理由、知ってるの?」
「葵衣にも、考えてることがあるんだよ。とりあえずしばらくのあいだ、あの家にはもどらないほうがいい」
「なんで……っ」
「紫乃」
顔をあげたとき、葵衣が静かにあたしの名前を呼んだ。
「いまは事情とか話せないけど……ひとつだけ、約束して」
葵衣はこちらに1歩だけ歩み寄り、
そっとうすい唇をあたしの耳元に近づけた。
「もし、――……」
葵衣はその“約束ごと”を小声で告げると、
あたしの頭を優しくなで、柊木くんと通学路を歩いていった。
なんで……
なんでこんなときまで、好きって気持ちを大きくさせるようなこと、するの?
なでられた頭をさわり、あたしは締めつけられる胸の前で、ぎゅっと手をにぎった。
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