とろけるジャムの隠し味
「北見さんって、好きな人いるの?」
休み時間、同じクラスの女子三人組がニヤニヤしながら、方程式の予習をしていた恵梨に聞いてくる。
「え、いないけど…。」
イジメの対象にならないように、その場しのぎの嘘をついた。
本当はずっと、ずっと、想っている人がいる。
小学生の頃から学校が同じ松本陽平は、いつもよく笑っていて、彼の周りには必ず友達がいた。
ピーマンが好きなのにトマトが苦手な、そしてバスケットボールが似合う優しい男の子。
恵梨が落としたハンカチを拾ってくれて、渡し忘れたからといって、わざわざ洗濯をして返してくれた。
陽平を知れば知るほど、恵梨の好きは募っていくばかりだった。
でも自信が持てなくて、伝えることができないまま、気付けばもう五年が経つ。
気持ちが溢れ出して辛い日もあったけれど、想っているだけで心が温かかった。
松本くんのことを考えたら、見飽きた近所の道路でさえ、外国のオシャレな街並みのようにキラキラしているから。