《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
ーーーあいつは、傘なんかきっと持ってないだろうな。なんせ片方の手袋しか持ってない奴だ。
秀馬のバッグには、いつも黒いワンタッチで開閉できる傘が入っている。
ーーー戻って貸してやるか。
踵を返した秀馬は、少し歩いて立ち止まった。
向こうに歩いて行ったはずの一子が、秀馬の方向に戻ってきたのが見えたからだった。
ーーーなんだ? あいつ。
秀馬の前にまた現れた一子は、思い切り微笑んで、肩にかけていた布製トートバッグに手を突っ込んだ。
「雨降ってるみたいだから、これを渡そうと」
バッグから一子が取り出したのは、白地に小花模様の折り畳み傘だった。
「……俺もあんたにコレを渡そうとしてた」秀馬が出したのは、黒いワンタッチの折り畳み傘。
先に一子が「やだ、同じこと考えてたんだぁ」と笑った。つられて秀馬も「あんた傘持ってたのか」と笑う。
向かい合って、顔が赤くなるくらい笑い続ける二人を、通行人たちが怪訝そうに見ながらよけて通っていく。
店の外壁に飾られたクリスマスの飾り。キラキラと輝く星のオーナメント、赤や黄色、緑の電飾。中から漏れてくるクリスマスソングの鐘の音がやけに明るくふたりの耳に届いていた。