《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
急いで一子は、伸びてきた秀馬の手をかわすみたいに手を引っ込めていた。
何故だかわからないが、そうすることがいいような気がしたのだ。
「手は大丈夫です。温まりましたよ。食べたら、エネルギーも補給されましたし。ふふっ」
行き場をなくした秀馬の手が、そのままそっと下がっていく。
「……そっか。そうだよな」
何かを納得したみたいに秀馬が頷いた。
暖房の熱風が足元から出ているせいか、一子は汗が出るほど全身暑くてたまらなかった。だから、巻いていた秀馬から貰ったマフラーを外して息をつく。
すると、秀馬が
「……俺は、余計な世話をし過ぎてるな。マフラーも余計だったよな? 持って帰ることにする」と一子がビニール袋の脇に置いたマフラーに手をかけてきた。
「あ! これは! あの貰います。全然余計とかじゃないので」
急いでマフラーを掴み秀馬から取り上げられないように、また首に巻いた。
「いや、考えてみれば、こんなの持ってたら歩が気にするだろうなって」
「え、歩さんが? どうし」聞きかけた時にバスの車内にアナウンスが流れてきた。
「次は〜○○小学校前、次は〜」
「あ、降りないと」
降車のボタンを押したりするうちに一子は、秀馬に聞く機会をすっかり逃していた。
家の近くに来ると、秀馬が一子に顔を向ける。
「じゃ、今度は……クリスマスパーティーで」
「え、あ……はい。今日は本当にありがとうございました」
秀馬は一子にお土産のビニール袋を渡して、手を上げてから背中を向けて歩き出していった。
ーーークリスマスパーティー。そうだった。
歩に誘われていた。aubuのクリスマスパーティー。
同伴者がいないと出席出来ない決まりだから、一緒に出席してほしいとお願いされていた。
秀馬さんは、例の好きな彼女を誘うみたいだからさって聞かされてもいた。
ーーー真田さんには、好きな人がいるんだもんね。当然だよ。
ビニール袋を両手に持ち道路に1人立つ。冬の寒風が体の前面に吹き付けるように吹いていた。
暖かいバスから降りたせいで、急な温度差に身震いする。
とうに見えなくなった秀馬の背中。その残像が街灯の下に見えるような気がして、一子は寒さの為に垂れてきそうになる鼻水をすすりながら、その場に立ち続けていた。