《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
この前の電話で、マッツンが秀馬の嘘を見分ける方法を知っていたように、秀馬もまたマッツンの嘘を見分けられた。
「マッツンは、嘘つくとき、必ず相手の言葉を繰り返してから返事をする」
「まさか」
「そういう癖っていうのを知らないのは本人だけなんだよ。面白いから黙ってた」
「仕返しのつもりか?」
「いや、全然。マッツン、ところで幾つになった?」
「突然だな……35歳だ。お前と同じ」
「な、もうそろそろ、じれったいのとか恥ずかしいぞ」
「なんだと?」
少し怒っているようなマッツン。
「諦めろよ。今でも好きなんだろ? 麻耶のこと……指輪も処分出来て無いんだからな。好きなら、さっさと会えばいい」
他人のことだから、強気なことが言える。まさにその通りだ。
「麻耶がそう願ってんだから。煩わしいことは抜きにして、麻耶が今一番大事に抱えてる想いを受け止めてやってくれよ。俺の知ってるマッツンなら、やってくれたはずだ。俺の親友、松田耕三は器のデカイ男だからな。小さいことは気にしてないはずだ」
「……そう簡単には」
まだ煮え切らないマッツンにイラついてきた秀馬は、裏口にあったポリバケツに蹴りを入れた。
「いっつ〜〜」
結構硬かったポリバケツ。痛さにしゃがんで、靴の上から爪先を押さえた。
「どうした?」
「う〜……俺の心配はしなくていい。マッツンはマッツンにしか守れない人の心配でもしててくれ」
立ち上がって耳からスマホを離し、通話を終わらせようとしたが気が変わり、もう一度耳に当てた。
「余計なお世話だろうが、麻耶は明日フランスに帰るらしいぞ。じゃ、寒いから切る」
一方的にいいたいことを伝え、通話を終わらせた秀馬。
寒くて身を震わせ、まだ痛む右足引きずるようにしながら裏口から店へと戻って行った。