《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
「こんばんは〜」
雑巾を手にしたまま入り口から入ってきた人を見た。
「あ、歩さん、いらっしゃい」
「遠くから見たらさ、お店が暗いから誰もいないのかと思ったよ〜。良かったぁ。一子ちゃんに会えて。ね〜一子ちゃん、店終わったらご飯食べない?」
歩は、棒状に丸めた雑誌を掌の上にパンパンとバナナの叩き売りの人みたいに当てながら、笑顔で夕食に誘ってきた。
「はい、あのでもあんまり、今日はお金無くて」
「やだなぁ。水くさい。もちろん奢るって」
「でも、理由もなく奢られるのは……」
歩が歩いてきて、雑巾を握っていた一子の手を取った。
「冷たっ。理由ならあるよ〜」
手を取ったまま一子の瞳を見つめる歩。
「クリスマスパーティーに同伴してもらうお礼に」
「そんなのは、お礼なんかいいです」
「1人でご飯食べるのは侘しいから」
「そうですか……」
「あと、一子ちゃんとデートしたいから」
「え、あの……デートですか?」
驚いて歩を見つめる一子。
「んー、デート」
見つめ返してくる歩。
ーーーデートに誘われている。デートって……恋愛感情がないと成立しないのでは?
一子は、恥ずかしくなり歩から視線を外して、俯いた。
自分の手を掴んでいる歩の手。横幅が広く清潔に切り揃えられた爪。男らしく節くれだった指。
ーーー歩さんは、私に恋愛感情があるの?