《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★

「悪いけど、タクシー貰うからな!」
2人の間をすり抜けるようにしながら秀馬が告げた。


「なんだと? おい、秀馬」
呼び止めようとするマッツンの声が響いていた。


エレベーターのボタンをカチカチと何度も押す。

表示される数字を見上げながら、秀馬はコートを羽織った。


ーーーあの温もり、感覚を覚えていたい。いつも…この手に。腕の中に。


ただ、会いたくて仕方がなくなっていた。どうしてだとか、理由なんか考えたくなかった。


最近、いつでもふと思い出してしまう一子の顔。顔を思い出しても、少しだけ握った手の温もりは決して戻らない。

だから、もう一度、あの小さな温もりを感じてみたい。感じればわかる気がした。マッツンの言う恋のせいで胸が痛んだのかも確かめられる気がした。



エレベーターを降りた秀馬は、マッツンたちが帰るために呼んだタクシーに飛び乗っていた。


ただ、会いたい……

その思いだけを胸に抱えて。
< 206 / 342 >

この作品をシェア

pagetop