《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
だから、秀馬の指を無視して口を開いた。
「鈍感って、だって、わた…」
聞きたい事も沢山あったのだ。
でも……
聞けなくなっていた。
テーブルに身を乗り出していた秀馬が更に身を乗り出し、一子の唇に自分の唇をそっと合わせてきたからだった。
ブロンズ色の瞳が、やけに近くなってきて、やがて瞼に隠れた。
目も瞑れなかった。瞑る暇も無かったというのが正しい。
唇に柔らかい感触を残し、またブロンズ色の瞳が現れて一子を瞬きもしないで見つめていた。
徐々に離れていく瞳を一子は、夢でも見ているようにぼーっとして眺めるしかなかった。
ーーー今、起こった事が現実なら……これは、大事件だ!
頭の中で、だんだんパニックを拡大し始めている一子をよそに、秀馬は冷静に落ち着いて見える。
「騒がないで、黙って……時間がないぞ。そろそろ出ないと」
時計を眺める秀馬は、たった今自分が巻き起こした事件を大した事だと思っていないようだった。
伝票を掴んで立ち上がり、レジに向かう秀馬。
目をしばたかせながら慌ててばかりで、ひたすら狼狽える一子は、バッグを落としたり、こけそうになったりとなかなか秀馬を追えなかった。