《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★

「店が繁盛する訳がわかった」


「ありがとうございます」


「あんたの仕事っぷりが見たかったんだ。男は一生、仕事だからな」

「はい」

「ちょっと、顔」村山父が右手の人差し指をくいくいっと曲げて秀馬を近くに来させた。


少し屈んで秀馬が村山父の近くに顔を持っていくと、突然頭にゲンコツをお見舞いされた。

「いっ!」

イテェというのを我慢した秀馬。歯をくいしばって村山父を見た。

秀馬の耳をつまんで、耳に向かい
「いいか、今度一子に外で接吻なんかしてるところを見たら、ただじゃおかないからな!」
と、怒鳴る村山父。

「はい!」

「昨日、一子を家に戻さなかったら絶対にあんたを許さないつもりだった」

「はい」
耳を摘まれたままの秀馬。

「でも、あんたは、あんたを追いかけた一子を家に帰してくれた。それに仕事もきちんとしてる。だけどな……」

何かを言いかけた村山父の前に
「やめて! お父さん」一子が息を弾ませ走って店に入ってきたのだ。きっと、父親がaubuに向かったと知り慌てて来たんだろう。


一子は、父の腕を引っ張り、秀馬の耳から手を離させようと必死だ。
一子の腕を振り払った村山父は、いきなり土下座をした。

店の床に膝をついたのだ。

「だけどな、三津子に聞いたら、あんたテレビや雑誌にも出る有名人だって聞いて……住む世界が俺らとは全然違う。遊びなら、頼むから…………頼む! 一子は、やめてくれ」

頭を床にすりつける村山父。

ーーー土下座。

家族を守ろうと必死な村山父の姿に秀馬は、自分の父親の姿を重ねていた。


ーーーあの日、親父も必死だった。俺と店を守るために借金取りに土下座をしたんだ。
思い出すと腹が立って仕方がない。
男だけでなく借金まで作り、勝手に出て行った母親。そんなロクでもない母親が出て行く前日に親父が母に贈ったブローチ。
秀馬の頭には、思い出したくもないのに馬蹄の形をしたブローチが浮かんできてしまった。


「お父さん……」一子の声を聞き、昔の切ない思い出に飲み込まれそうになった秀馬は、ようやく自分を取り戻していた。

心配して駆けつけた一子は、泣き出しそうで父の隣にしゃがみ込み、父の腕を引っ張る。
「お父さん、こんなことやめてよ」

秀馬も急いで、村山父の腕を取り立ち上がらせる。
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