《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
毎年、イブやバレンタインは、いつもより早く店を閉める。スタッフにもイブに楽しい思い出を作ってほしいからだ。
スタッフのことは、常に大切に思っている。
『イブに夜遅くまで仕事? やだなぁ』とどんより仕事をされるより、『今日は、早く上がれる。嬉しい! 頑張ろう』そんな気持ちで仕事をしてもらいたい。笑顔のスタッフがいてのaubuだからだ。
「お疲れさまです。楽しいイブを!」
スタッフが帰り始めて、バックルームには歩と秀馬しか残っていなかった。
「秀馬さん、これ」
歩が、差し出してきたのは映画のチケットだった。
「ん? なんだ?」
ため息をついてから、歩は少し笑ってみせた。
「お手上げ状態ですよ。昼間のアレっすよ。アレ。一子ちゃんのお父さんっすよ〜。あんな土下座見せられたんすから。俺は、もう完全に撤退するしかないっすよ」
両手を降参というように上げて見せた歩。
秀馬が座っている椅子の前に座ると、歩は神妙な顔で秀馬を見る。
「まあ、本当は初めから勝負は見えてたんすけどねー」
歩は、秀馬に好きな女と行くデートコースの下見をしてこいと頼まれたと嘘ついて一子をデートに誘ったことを白状した。
ーーーずいぶんな嘘だな。
秀馬は、苦笑いした。
「秀馬さんに好きな女がいるとか嘘言ってデートに誘って〜雑誌に載った記事も使いましたけど……結局、俺は秀馬さん以上に好きになってもらえなかったんすよね」
下を向く歩。
「で、クリスマスパーティーも無理に同伴してもらっちゃって……でも、さすがの俺もねー、こういうのって、なんか違う気がしてきたんすよねー」
歩は、背負っていたメッセンジャーバッグを前に持ってきた。ファスナーを開けて中からビニール袋を出してみせる。