《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
「謝るな。何にも誰も悪くない」
「でも……」
「……一子のおかあさんは熱い人だな。けど、同じ母親でも俺の母親と一子のおかあさんは雲泥の差だ。うちの母親は、他の男の為に自分の子供を捨てた女だから」
ーーー他の男の為に捨てた? 真田さんは捨てられたの?
一子は、秀馬の端正な横顔を見上げた。
「会いたいなんて、思ってる訳が無いんだ。思ってたら電話や手紙のひとつあってもいいだろ? 出てってから一回もないんだ。ただの一度もね……。だから、俺も会いたいとは思ったことは一度も無い」
「……」
「ごめん。こんな話は聞きたくないよな?」
秀馬の腕をぎゅっと握る一子。
「そんなことない。真田さんのことならなんでも知りたいよ」
「ありがと、一子。俺は一子がいればいいよ。本気でそう思ってるから」
寂しそうに笑う秀馬の隣に寄り添う一子。
ーーー真田さん、私は、そばにいるから。ずっと、ずっと一緒にいるからね。
寒さのせいで、鼻がツンとなった。鼻水をすすり上げて歩いた。
「寒いか?」
優しい声で囁き、一子の肩を抱く秀馬。
空に浮かぶ三日月。チラチラと輝きを放つ星たち。
夜道には、二人の靴音だけが切なく響いていた。