《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
「気をつけて。真田さん」
歩道の隅で先程の母のように、秀馬をハグする一子。
「うん、おかあさんによろしく伝えて」
一子の体をゆっくりと離し、タクシーを止めようと道路近くへ行き手を上げる秀馬。
「うん……あの、真田さん」
「ん?」
「大晦日、真田さんの家に行ってもいい?」
タクシーが秀馬の前に静かに停車した。
「え! あ、うん。もちろん、いいけど」
タクシーのドアが開いた。
「じゃ、じゃあ……ゆっくり出来るよね。2人で……」一子は、今夜秀馬と二人きりで過ごせなかったから、リベンジしたいと考えていた。
「ゆっくりって、そのまま元旦初詣に行けるってこと?」
「うん、元旦に初詣行きたい」
一子の返事に多少驚いていた感じの秀馬が、困ったような表情を浮かべた。
「俺、眠くなっちゃうかも……仮眠してから、ゆっくりでもいい? ほら、一子だっていつも居眠りしちゃうだろ?」
「うん、仮眠してからゆっくり行こうね」
秀馬の提案に素直な一子の言葉に、低くなったテンションが、上がってきた様子の秀馬。
「ほんとに? なら、お泊まりセットみたいのいるんじゃないかな?」
「お泊まりセット?」
ーーーそんな具体的に?
「ほら、一応だよ。女の子は化粧落としとか化粧道具とか何かと物入りだろ? 下着とかも一応」
段々、現実的な話になり一子は、あたふたしだした。
「下着も…え! 下着?!」
突然大声を出す一子に焦った秀馬は、逃げるようにタクシーへ乗り込んだ。
「ほら、一応だよ。それも! まあ、いいや。また連絡するから……ここまで俺を喜ばしといてドタキャンなしな?一子」
くぎをさすみたいな言い方をする秀馬。
「うん、わかってる」
タクシーのドアが閉まり、窓を開けた秀馬が手を振っていた。
ーーーなんだか、すごく恥ずかしい。
自分から秀馬に振った話だが、今更恥ずかしくなって一子は、両手で顔を覆った。