《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
でも、すぐに母は男に捨てられたそうだ。初めから金だけが目的の男は、母から取れる金が無いと知ると、あっさり捨てて何処かへ消えたらしい。
行き場を無くした母は、叔母のところへ行き生活していたようだ。
もう、世話になっていた叔母のことさえ、誰だかわからない母。
後ろにいる秀馬のことなど、到底誰なのかわかるはずもなかった。
「ヘルパーの早苗ですよ。忘れちゃった? こちらは……」
叔母は、秀馬をなんて紹介すべきか少し悩んでいるように見えた。
「新しいヘルパーの……秀馬です」
自らヘルパーを名乗り秀馬が挨拶すると、早苗は驚いた表情をみせた。
「あら、偶然ね。うちの息子も秀馬っていうのよ〜。貴方、背が高いのね? うちの息子もまだ小学校の一年生だけど、背が高いのよ。背の順で1番後ろなの」
楽しそうに話す早苗は、秀馬という息子がいることは覚えているようだった。そして、その息子はまだ小学生だと話す。
「そうなの、偶然ね。……秀馬くんも座って」
叔母に促され、久しぶりに会う母親の斜め向いに座った。
ーーーあれは……。
早苗が指で盛んに触っている胸の少し上につけているブローチに秀馬は驚いて目を見張った。
「素敵ね〜。そのブローチ」
叔母が話しかけると、母は嬉しそうに微笑んだ。
「えぇ、そうでしょう……主人が私の誕生日にくれたのよ。幸せになれるんですって」
「そお、素敵ね。優しいご主人ね」
叔母の言葉に母は、頷いた。
「そうなの。すごく優しくて……そうそう、腕のいい理髪師でね、私の髪も切ってくれるのよ」
髪を触る母。
秀馬は、思い出していた。
店が休みの日に、父が母や秀馬の髪を切ってくれた。
秀馬は、父が髪を切る姿が好きだった。
父に髪を切ってもらった客が喜ぶ姿を見るのが好きだった。
髪を切ってもらった母が「綺麗になったわ。貴方と結婚して良かったわ。いつもこんなに綺麗にしてもらえるんだもの」と父に微笑んだ姿を思い出した。
今、目の前にいる母から目を逸らした秀馬は、いたたまれずに椅子から立ち上がっていた。