《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
ーーー考えてみたら……。
常連の予約客のセミロングヘアをブローしながら、秀馬はふと思っていた。
ーーー最近、仕事ばかりでプライベートなことは二の次にしてきた。だからって訳でもないだろうが、彼女とか恋人って存在がそばにいなかったなぁ。
鏡の中にいるセレブな中年の女性客と自分を眺める秀馬。朝、歩は嬉しそうに「頑張る」と言っていた。
ーーーそういうのは、頑張って作るもんだったか? わからなくなってきたな。しかし、あんなどこでも居眠りする女の何処がいいんだ?
ブロー後に客に合わせ鏡をして、後ろの髪を見せる。
「後ろは、こんな感じです。いかがでしょう。……素敵ですよ。後ろから見ても」
客は、満足そうに微笑んだ。
「うん、いいわ。ホント、秀馬さんのカットは早いし安心して任せられるからいいのよね」
「ありがとうございます。佐々木様にはいつもご予約して頂いて……」
「毎月楽しみなのよ。また来月も来るわね」
椅子から立ち上がろうとする女性客に手を差し出す。
秀馬の掌に嬉しそうに手をのせる女性客。