《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
ーーー冗談がすぎるよ。心臓がもたない。
秀馬は、自分からだいぶ離れて歩いている一子を振り返り立ち止まる。
「あんた、離れすぎだ。……速すぎたか?」
「いえ、大丈夫です」
一子の前まで歩いてくる秀馬。秀馬は、一子の手を掴み歩き出した。
「あの、真田さん…」
秀馬に掴まれた手を見つめた。
「なんだ?」
「……なんでもないです」
ーーー冗談でもなんでもいい。優しいから、こうして手も掴んで歩いてくれるんだなぁ。
真田さんと手をつなぐなんて、きっとこの先ない事だ。二度とない出来事なら大切に味わいたい。
掴まれて歩きながら、一子は、なんとなく言葉にいい表せないような幸福感をかんじていた。
「今度、私に髪の切り方教えてもらえませんか?」
「髪? あんたの髪なら……俺が切ってやるが?」
「私のじゃなくて妹のです」
「妹?さっきの女子高生か?」
「いえ、一番下の末子(すえこ)です」
「……すえこって……もしかして末っ子だから、すえこか?」
秀馬は、眉間に皺を刻む。
「はい! よくわかりますね」
「わかるよ。あんたんちの親の名付け方なら、なんとなく見当がつく」
「ははっ、そうですね」
「で、その子もあんたが切ってやったのか?」
「はい。でも、うまくいかなくて」
「……だろうな。それも見当がつく。よし、週末に教えてやるよ」
「えっと、週末っていうのは、土曜日ですか?」
「ああ、都合悪いのか」
「え、はい。ちょっと……」
言いにくそうな一子。