続*時を止めるキスを —Love is...—


ほんの少し前まで、この声は怖い上司から向けられる威圧的なものでしかなかったのに。

それが今では、私の鼓動を跳ね上げる唯一にして至上のものとなっている。

この極端な変化もまた、私たちらしいということ?……うん、考えるのもそろそろ疲れてきましたね。


突き当たりを右に曲がったところでバスルームに到着。

同時に、つかの間のお姫様タイムも終了を告げた。

酔っ払いは少し粘ってみましたがスルーされた挙げ句、床に足が着いた時点で諦めましたよ。

恨めしげな視線を送ると、メイクを落とせ、とにべもなく言う彼がクレンジングやコットンを出してくれる。

甲斐甲斐しい方のお陰で、肌の上や目元口元の汚れを綺麗に拭き取っていく。


小細工には余念がないものの、ともすればくどい顔立ちになるので平日用メイクは控えめ。

ここでいつも思い出すのは、私専属のビューティーアドバイザーでもある円佳の存在だ。


「目を伏せた時にグラデが美しいのは必須ね。ていうか、もはや常識。
はっきり言って、なぁんか惜しいのよねー。同じ色味ばかり集めてるでしょ?
ラメやピグメントの微妙な光加減なんてね、他人に気づかれる筈ないの。
もちろん、美意識向上には自己満足も大事!ま、コスメ収集自体、男のコレクター気質と変わんないしね。
敢えて言わせて貰うと、一瞬の勝負はやっぱり唇!——で、藍凪、ソレって塗ってんの?顔色最悪」

こうして美意識の高い受付嬢がひとたびメイクについて語り出すと、その最後は決まって、傍聴者の私に辛口評価で締められる。


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