続*時を止めるキスを —Love is...—


就業中に名前で呼ばれ、思わず目を見張る。でも、私はそれを隠すように俯き加減で口を開く。

「すみません、しつ」

“失礼します”とも言わせて貰えず、せせこましい態度のチーフの通話は途切れてしまう。

“賢いのは充分知ってますけど、人の話を聞かないのはそちらも一緒ですよ?”といつか言おうと思いながら……。


ともあれ、こうしてはいられない。スマホが内ポケットに入っているのを念のため確認する。

そして先輩に向け、「ちょっと資料室に行ってきます」と言付けをして席を立つことにした。

ひとりきりになれる場所を頭の中で考えたところ、滅多に使うことのない資料室が妥当と思ったのだ。


秘書課を出た私は廊下を走り、静寂に包まれたその部屋の中へ入る。バタン、と急いでドアを閉めるとスマホを探って手に持つ。

その直後、規則的な振動とともに画面には“龍”の名前が表示されたのでスライドして通話に切り替える。

「な、なに!?」と、出した声は疾走のせいか少しだけ息が弾んでいた。


「お前、何で昨日言わなかった?」

「主語が抜けて」

「“報連相”の出来ねえヤツが言うな」

ここでも上司然とした彼に言葉を被せられ、恨めしく思いながら押し黙る私。


「——元彼と会うって何のため?」


< 35 / 82 >

この作品をシェア

pagetop