続*時を止めるキスを —Love is...—


明らかに怒りを潜めていると分かる、低く聞き慣れたその声音に身震いしたのもほんの一瞬。

「何で知って……あ、柚さん!」

「んなこと、どうでもいいんだよ」

ものの見事にあしらわれたものの、柚さんに失礼でしょうとは言える空気ではありませんね。

ひたひた、と遠慮がちに歩みを進め、ドアを離れて書棚に背をつけた私。

無音のこちらとは対照的に、早口のアナウンスの漏れ聞こえてくる電話口。どうやら彼はすでに空港にいるらしい。

「……俺の言ったこと、覚えてねえの?」

じれたように問い質され、「……なに」とぶっきらぼうな声を返してしまう。


「——言いたいことも言わずに逃げんの?」

電話越しに淡々と言われたフレーズに、大きく目を見張る。……それは思いが通じ合った日、私へ向けられた時の言葉だった。


「俺は用がなくても声が聞きたいし、むしろ声を聞いて癒されると仕事も頑張れる。
藍凪はさっぱりしてるけど、それはそれで良いよ。その気ままなとこが好きでもあるし。
だけどな、何かあった時くらいなんで正直に言えねえの?」


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