続*時を止めるキスを —Love is...—
高いヒールを履いているその人。とはいえ、平均的な身長の私が見上げるのだから、ゆうに170センチはあるだろうか。
ストレートの茶色い髪が強いビル風になびき、さながらモデルの撮影を垣間見たように感じられた。
「あの、何か……?」
話しかけてきたにもかかわらず、一向に口を開かずにいる彼女にじれて尋ねた。
それなのに今度は腕を組み、濃いアイメイクを施した目で睨みつけてくる始末。
「こんなのの、どこが良いわけ?」
ようやく話したかと思えば、開口一番の攻撃が待っていた。いやいや、その前にこちらは“あなたは誰ですか”状態ですよ?
さすがに私も、「はぁ?」と刺々しい口調になってしまう。……たとえその通りでも、だ。
「……どこかでお会いしましたか?」
「ほんと、分からないわ。こんなのを取る意味が」
徐々に引きつる顔に笑みを浮かべて聞いてみるものの、相変わらず不遜な態度を改めようとしない。
「要領を得ない方と会話する時間はございませんので、これで」
堂々巡りはごめんですよ?——ふぅ、と溜め息を吐いてから、淡々と早口で言い切ることにした。
そのまま背を向けようとした刹那。パシン!と乾いた音が響いたのと同時、頬には鋭い痛みが走っていた。
さて、忘れてはならないのが、ここが昼すぎのオフィス街だということ。
行き交う人々を邪魔するように、対峙している私たちの均衡が崩れた瞬間。その、人の波が若干速まったように感じられる。