続*時を止めるキスを —Love is...—
悔し紛れのように発せられた声のボリュームには、思わず顔を顰めてしまう。
忘れないで欲しいのです。ここは日本経済を動かす首都であり、その歩道を塞いで発狂することはとっても恥ずかしい行為ですよ?と。
「……なるほど。彼の付き合う平々凡々な女に別れるように脅しをかけにいらしたのですね。
関西からですよね?遠路はるばるお疲れさまです。
しかしながら、彼のお見合い話については私はノータッチです。何ら存じ上げません。
どうぞ一切合切は本人に直接仰って下さい。——私には関係ありませんし、巻き込まれると大変迷惑ですから」
私がそう言い切ると、アジアン・ビューティーなお顔を真っ赤に染めていた。
どうやら央華ちゃんの言っていたとおり、今もなお睨んでくる見合い相手さんは、“女のくさったような性格”の持ち主なようですね。
こういう怒り直下型の人に苛立ってみせても、火に油を注ぐだけ。よって、御託を並べきったらあとは粛々と受け止めるのみ。
さらに言わせて貰うと、円佳や柚さんのほうが桁外れの美人さんで、あちらのほうがはるかに怖いので耐性は出来てますが何か。
ということで、私はもう彼女に構うこともなく、「では、失礼いたします」と一礼してそのまま背を向けた。
「……どうしたの、それっ!」
こうしてようやくオフィスに帰還した私は秘書課へ戻るなり、頬の赤みを指摘されてしまう。
事前にエレベーター内でチェックしたところ、ネイルアートを施した爪先で出来たらしいかすり傷まであってうっすら血も滲んでいた。