続*時を止めるキスを —Love is...—


この負傷具合によって呼び出し相手と何かあった、と思われたのだろう。……その後に災難が待っていただけなんですがね。


「こんなの大したことありませんよ?」

本当は央華ちゃんのためにも誤解を解くべきでしょうが、あいにく今はそんな余力すら残っていない。

一笑に付した私に突っ込む人は、誰ひとりとしておらず。そのまま静かに席に戻っていったので、当の私も自席についた。


ちなみに皆の表情が固まっているあたり、答えた時の顔が相当恐かったのだと思われますが。……龍のばかあああ!


そうして本日は残業をすることになった。出抜けていた分の仕事が溜まっているし、何かをしていたほうが気もまぎれるというもの。

すでに同僚たちは帰宅の途に着き、いま秘書課にいるのはパソコンと向き合う私ひとりだ。

デスクの真上にある電灯以外を消しているため、まるで虚しいスポットライトを浴びているようで切なくなる。

カタカタ、とキーボードを叩く音を静寂に響かせながら、無言でドイツ語の翻訳を続けていく。


ちなみにあのあと医務室に行って処置して貰ったら、手当て下さった医師の顔にもしっかり書いてあった。……修羅場の成れの果てか、と。

そうこうしているうちに、気づけば時刻は21時を回っていた。ふぅ、と溜め息をついて席を立つ。

そのまま給湯室に向かい、専用マシンの中からカフェラテを選んでその前で佇んでいた。


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