square moon
彼女は父と特別な関係だったのかについては曖昧なままだった。

『父のことを、どう思っていたのですか?』
僕は聞いた。

彼女は少し遠くを見つめ黙っていた。
ゆっくり目を閉じると
『あの人はかわいかったな』
と呟く。
『かなり年上だったけど…
かわいい人だった。
子供みたいで。
不器用な人だったからね。
ほんとは寂しいくせに、一匹狼になってみたり。』
少しだけ笑うような顔をして彼女は続けた。

『結構愚痴の多い人だったけど
そういうのを回りに言える人じゃなかったと思うの。
そういうのを吐き出す存在だったんじゃないかな?私は。』

答えのような答えでないような事を僕に言う。

『私の事を女としてみてなかった気がするよ。』

『そうかなぁ?』
『うん。じゃなかったら愚痴言わないでしょ?
元々カッコ悪い自分を見せる人じゃないし。』

確かにプライドは高い父だった。
弱味は子供である俺たちには見せない。
だからうつ病になった時、少し正直がっかりした。

『そういう自分を見せられる、ということは
あの人の性格上、女としてみてなかったな、きっと。』

そうなのかもしれない、と少しだけ思った。

『父を支えてくれてたんですね』
僕は言った。

『支えたつもりは全くないけど…
そう思ってくれてたなら嬉しいな。』
彼女は、笑った。

僕はそれを見たらなぜだか涙が出てきた。
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