square moon
身近な人…
父にとって彼女はそういう存在だったのだろう。

でも彼女の前で僕は泣いた。
彩の前でも泣かなかったのに。

だから父の気持ちが少しわかった気がした。

彼女は、吉沼レイラという人は
人の心をいい意味で掻き乱す。

弱い部分を吐き出させてしまうなにかがある女なのだ。

『吉沼さん。
失礼ですがおいくつですか?』
僕は思いきって聞いた。

『私?
お父さんと15歳離れてたよ。
多分ユウさんと一回りくらい違うかも。』
そういうと笑った。

父の15下…
やはり40代半ば。

『そういえばこの前いたのは彼女?』
彼女が聞いてきた。
『あ、あぁ。
そうです。』
『かわいい子じゃない。いいわね。
あ、あれ?彼女うちに連れてきてあの人が嬉しくて連れ回した子?』
『え?』
そういうと彼女は笑った。
『お父さんいってたよ。
自分は息子しかいないし、女の子は仕事で関わってて面倒くさくて嫌だと思ってたけど
息子が連れてきた彼女がかわいくて娘いればよかったって思った、って。
息子に俺の彼女なんだからね、って怒られたっていうくらいはしゃいだって。』
そんなことまで彼女には話したのか、と思った。
『息子の彼女に別れても遊びにおいで、っていったんだ、って。』
『え?』
『そういったって。いってた。』
先日彩から聞かされたことを彼女は知っていた。

『父は色々吉沼さんに話してたんですね』
素直にそういった。
『そうかなぁ?』
『俺は父のことをわかってなかったかもしれない』
『そんなもんじゃない?』
彼女はいった。
『私はさ。彼と共通の知り合いとかいないに等しいのね。
だから私といるときの彼しか知らないのよ。』
彼女は続けた。
『あなたは父親としての彼しか知らないだろうし
教え子さんたちは教師としてのあの人しか知らないと思う。
私もそうだと思う。
教え子たちは保育士としての私しか知らないだろうし。』
『そんなもんですかね』
『人間色々な顔を持ってるもんだからね。
職業人としての顔、父親としての顔、母親としての顔、娘や息子としての顔。男や女としての顔…』
その言葉を考えると父は彼女にどの顔を見せていたのだろう。
彼女も父にどの顔を見せていたのだろう。

そして今僕は、彼女にどの顔を見せているのだろうか。
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