君だけに、そっとI love you.
・2学期
ーー2学期ーー
朝、あんなにうるさく鳴いていた蟬の声が最近は全く聞こえなくなった。
夏が終わりを告げているようで少し寂しい。
夏休みが終わってしまった。
今日から9月、2学期がスタートする。
教室の中の皆は夏休み中の話題で盛り上がってざわついている。
クラス全員がまだ揃っていない。
1人足りない。
坂口くんがいるはずの席に、坂口くんがいない。
どうして、坂口くんがまだ学校に来ていないの?
2学期早々、遅刻か欠席──?
『明日、学校に行く』って私に言ってたはず。
席についたまま掬惠が周りをキョロキョロと見渡して周翼を探していた。
すると、もう少しで朝の朝礼が始まる時間ぎりぎりに教室に入ってきたのはとりわけ全く急いでいる様子のない周翼だった。
ちょうど教室の前の方の開けっ放しになっている扉から坂口くんが入ろうとした時、ざわついていた教室が静まり返って空気が変わった。
坂口くんが歩く度に皆が振り返る。
周翼が自分の席を目掛けて一心に歩いている。
私も大きなあくびが出かけた口に思わず手を当てて、目を丸くして、そのまま固まってしまった。
クラスメイトの口々にひそひそと坂口くんの噂話をする声が聞こえる。
「おいっ、坂口どうしたんだろうな?」
「わからない。でも、前より良くなったんじゃない?」
周りの様子の変化に惑わされることなく、静かに席につく坂口くん。
坂口くんは、頬杖を付きながらだるそうに薄い水色の空をずっと見上げている。
また……、電線にとまっている雀でも数えているんだろうか。