明日はきらめく星になっても
「たらいま〜」
大きな物音ともに、娘が帰って来た。母親が、大慌てで部屋を出て行く。
「きゃー!み…美緒 ‼︎ 」
何やらただならぬ様子らしい。
娘の相手と二人で顔を見合わせ、立ち上がった。
「何事だ…」
部屋を出ると、玄関口で娘が倒れ込んでいる。
真っ赤な顔をして、ぐたっとして…。

「美緒!起きなさいっ! 美緒っ ‼︎ 」
玄関マットの上で寝転んでいる娘を、母親が揺すり起こそうとしている。
「呆れた奴だ…。一体どこで飲んで来たんだ…」
側へ寄った。
全身の力も入らないくらいの酔っ払い方に、さすがに情けなくなった。
「美緒!こらっ!起きろっ!」
頬を叩くと痛そうな顔をした。どうやら意識はあるようだ。
「ん…」
身体が重く、言うことを聞かないらしい。何より今は、眠気が先に来てしまっている。
「困った奴だ…」
こんな姿を露呈して、相手が何と思うことやら…。

「あの…何でしたら、部屋へ連れて行きましょうか?酔っ払いの相手なら慣れてますから…」
横へ来て、声をかけられた。
「すみません。お願いできますか?私達じゃ手に負えませんから…」
母親に頼まれ、快く頷いた。
娘の肩に手を回し、ヒョイっと軽く身を起こす。
「こっちです」
案内する母親の後をついて、二階へ上がって行く。
小さい子供のうちならともかく、今となっては父親にもできないような事を、軽々とやってのける。

(こんな相手の方が、美緒には向くんだろうか…?)
…ふと、そんな気がしてしまった。

「気持ち良さそうに寝ちゃってもう…」
呆れ顔で呟く母親の横で、娘を見ている眼差しが優しかった。
この男なら、間違いなく娘を大事にしてくれそうだと、思わず錯覚してしまいそうになる…。
(いやいや、まだ分からん…)


「また伺います。失礼しました」
帰る間際も、きちんと頭を下げた。
職業柄と言うのもあるのだろうが、本質的に折り目正しい男なのだろう。

(つまらん…悪い所など、一つも目につかなかった……)

娘の目の高さを評価するべきなのか、それとも相手を褒めるべきなのか…。
ーー 全ては明日、話を聞いてからということにしよう。
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