smile
 
「………愛深(つぐみ)」

「ん?」

 私が名前を呼ぶと、娘はビスケットをくわえながらこちらを振り返った。

「何か飲む?」

「……うん」

「何が良い? 牛乳と、りんごジュースと、麦茶と、ココアあるけど」

「……ココア」

 短く言うと、娘はまたテレビの方へ向き直った。

 笑うことなんて、しないのに。


 感情を失くしたわけじゃない。

 ケガをして痛ければ泣くし、ちょっかいを出してきた友達には怒ったらしい。

 ただ、笑うという行為だけが、娘から欠落してしまっているのだ。言えば、楽しいとか、そういうものだけが、抜け落ちてしまっているということ。
 
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