君を瞳に焼きつけて
「ふぅ…、大分片付いてきたわね。」

母の言う通り、ダンボールが山積みだったリビングはすっかり綺麗になった。

「陽月、部屋の片付けはどう?」

「うん、大体終わったよ。」

「そう。お父さんが帰ってくるまでまだ時間あるし、少しお茶にしようか。」

私の家では、晩ご飯は3人で作ることが約束なんだ。
どんなに仕事で疲れていても、父は『少しでも、コミュニケーションを取る時間を多くしたい』と、ちゃんと一緒に料理をするんだ。

母が紅茶を入れてくれて、2人でゆっくりと過ごしていると、

「ただいまー」

と、父の声が聞こえた。

「「おかえりなさい!」」

母と2人で声をそろえて言う。

それから、3人で晩ご飯を作った。
今日は、オムライス。

「「「いただきます」」」

オムライスを食べながら、

「陽月、明日から学校だよな?」

「うん。制服とかも全部準備してあるよ。」

「そっか。じゃあ、明日は3人で写真撮ろうな!」

これも、転校する度にやること。
新しい制服で3人で写真を撮る。
ここの学校の制服は、セーラー服で結構可愛い。
もう少し早ければ、進級と同時に転校出来たんだけど、ちょっと遅くなってしまった。
まぁ、どちらにしても、クラスにはグループがたくさんあって、なかなか友達は出来ないんだろうな。




次の日。
新しい制服に身を包み、長い黒髪を整えて、玄関に出る。

「おっ、セーラー服似合うな!」

「えぇ、すごく可愛いわよ!」

「ありがと。」

両親に褒められ、照れてしまう。

「じゃあ写真撮るぞー!」

パシャッ

「よし、じゃあ、行ってくるな!」

「私も行ってきます!」

「行ってらっしゃい!!」

母に見送られ、私は新しい通学路を歩き出した。
中学校は、自宅からそんなに離れていなくて、歩って20分位の位置にある。

ゆっくり回りの景色を見ながら歩く。
回りは、ほとんど田んぼ。
初めてここに来たとき、空気が美味しいと素直に感じた。
緑がたくさんあって、私はすぐにここが好きになった。

学校に着くと、校門に先生らしき人が立っていて、

「おはよう!君が白石さんかな?」

「はい。おはようございます。」

ぺこりとお辞儀をすると、

「担任の吉田由香(よしだゆか)です!
よろしくね!」

吉田先生は、可愛らしい感じの先生で、
笑顔が素敵な人だった。
吉田先生に連れられて校長室に行くと、

「おはよう。よく来たねぇ。」

校長先生は、優しそうなおじいちゃん先生でだった。
簡単な説明を受けて、教室に向かう。

「白石さんのクラスは、2年1組だよ。」

廊下を歩きながら、吉田先生が話してくれる。
部活とか、委員会とか、学校の案内も兼ねてゆっくり話しながら歩いてくれた。

「ここが、2年1組の教室。
呼んだら入ってきてね。」

「はい。」

そう言うと、吉田先生は教室に入っていった。
教室は結構騒がしかったけど、吉田先生の一声で大分静かになった。

「じゃあ、白石さん、入って!」

先生の声が聞こえて、教室のドアをガラリと開けて先生の隣に立った。
生徒たちが少しざわっとしたけど、なんでだろう…。

「じゃあ、白石さん。自己紹介して。」


「白石陽月です。父の転勤で東京から来ました。よろしくお願いします。」

ぺこりとお辞儀をすると、また少しざわっとした。
何か変だったかな?

「じゃあ、白石さんの席はー…」

「先生!俺の隣空いてます!!」

「あ、そうね。じゃあ白石さん、窓際の1番後ろの席に行って。」

「はい。」

机の間を通って、窓際の席に行くと、
隣の席の男の子に声をかけられた。

「俺、佐野蕾!よろしくな!!」

「うん、よろしく…。」


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