君を瞳に焼きつけて
「陽月?」
名前を呼ばれてハッとする。
目の前には、心配そうな蕾君の顔。
そうだ、今は蕾君と帰っている途中だった。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫。ごめんね、ちょっとぼーっとしちゃった。」
繋がれた手がじわっと汗をかく。
『取られちゃうよ?』
『よく我慢出来るよなぁって。』
万桜たちの声が頭から離れない。
『取られちゃうよ?』
嫌…!!
「陽月!!」
肩をガッと掴まれて、ビクッとする。
「どうしたんだよ。
なんか変だぞ?」
目の前に蕾君がいて、なんだか安心して、でも不安になって、
ただ涙が出た。
そんな私を見て、一瞬ギョッとした顔をした蕾君は、何も言わずに、ただ私の手をぎゅっと握って、ある場所へと連れてきてくれた。
そこは、
田舎のこの町を見下ろせる高台だった。
ぽつんと寂しく置かれたベンチに私を座らせ、その隣に自分も座った。
「……………」
「……………」
お互い無言で、ただ、手を握ってた。
それだけなのに、『好き』って言われてるみたいで、私からも『好き』って伝わるみたいで、
恥ずかしくって、あったかくって。
心地よくて。
「陽月。」
ふと、名前を呼ばれた。
「前、見てみな。」
言葉の通り、前を向くと。
「う、わぁ…」
目の前に広がっていたのは、真っ赤に光が沈む瞬間の景色だった。
それはまるで、異世界への扉のようで。
光が下に広がる田んぼに反射しては交差して、道標のように繋がっていって。
『一瞬の奇跡』
その言葉がぴったりだった。
「ここさ、地元の人もあんまり知らないんだ。」
感動で言葉が出ない私に語りかける蕾君。
「何があったかは知らないけど…、
俺、陽月が好きだよ。
…それだけは、わかってて。」
…何かを察してくれたのか、普通の会話のように、優しくさらっと言われた『好き』が、ゆっくり心に染みてきて。
また涙が出た。
「…泣くなよ。」
抱き締めてくれる腕も優しくて。
あぁ、好きだなって。
そう思った。
「…蕾君は、その、、」
「ん?」
「き、キス…とか、したい?」
「……は!?」
顔を見ると真っ赤になっていて。
「ち、ちょっと待って。
突然なに?」
その顔を腕で必死に隠そうとしている蕾君。
「あ、いや…。
万桜たちがね、1か月で手繋ぐだけとか遅いって。
…蕾君、よく我慢出来るよなぁっ…て。」
少しの沈黙の後、蕾君が言う。
「まぁ、確かに…。
我慢してないかって聞かれたら、我慢してるっては答えるかなぁ。」
「そっ…か。」
「でもさ、我慢て悪いことじゃなくねぇ?」
「えっ?」
顔をあげると、頬に蕾君の手が伸びてきて。
「…陽月に触れたい、とか、キスしたい、とか、そうゆうのはもちろん思うよ。
好きなんだし。」
頬に触れる手から、蕾君の温かさが伝わってくる。
「でも、別に急がなくていいと思うんだ。…俺はこれからも陽月と付き合っていくつもりだし。」
両方の手で頬を包まれて、お互いのおでこをこつんと合わせた。
「無理矢理して、陽月を怖がらせたくないしな。
…俺達は俺達のペースで進んでいこう。
焦んなくていいよ。」
…どうして、蕾君の言葉はこんなにあったかいんだろう。
さっきまで押し潰されそうだった心がふわっと軽くなったのがわかる。
「…ずっと一緒にいような、陽月。」
この時の私達は、未来なんてわかるはずもなくて。
ただ、ずっと一緒にいられる、そんな根拠もない希望だけを持っていた。
もう歯車は、嫌な音をたて始めていたのに。
名前を呼ばれてハッとする。
目の前には、心配そうな蕾君の顔。
そうだ、今は蕾君と帰っている途中だった。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫。ごめんね、ちょっとぼーっとしちゃった。」
繋がれた手がじわっと汗をかく。
『取られちゃうよ?』
『よく我慢出来るよなぁって。』
万桜たちの声が頭から離れない。
『取られちゃうよ?』
嫌…!!
「陽月!!」
肩をガッと掴まれて、ビクッとする。
「どうしたんだよ。
なんか変だぞ?」
目の前に蕾君がいて、なんだか安心して、でも不安になって、
ただ涙が出た。
そんな私を見て、一瞬ギョッとした顔をした蕾君は、何も言わずに、ただ私の手をぎゅっと握って、ある場所へと連れてきてくれた。
そこは、
田舎のこの町を見下ろせる高台だった。
ぽつんと寂しく置かれたベンチに私を座らせ、その隣に自分も座った。
「……………」
「……………」
お互い無言で、ただ、手を握ってた。
それだけなのに、『好き』って言われてるみたいで、私からも『好き』って伝わるみたいで、
恥ずかしくって、あったかくって。
心地よくて。
「陽月。」
ふと、名前を呼ばれた。
「前、見てみな。」
言葉の通り、前を向くと。
「う、わぁ…」
目の前に広がっていたのは、真っ赤に光が沈む瞬間の景色だった。
それはまるで、異世界への扉のようで。
光が下に広がる田んぼに反射しては交差して、道標のように繋がっていって。
『一瞬の奇跡』
その言葉がぴったりだった。
「ここさ、地元の人もあんまり知らないんだ。」
感動で言葉が出ない私に語りかける蕾君。
「何があったかは知らないけど…、
俺、陽月が好きだよ。
…それだけは、わかってて。」
…何かを察してくれたのか、普通の会話のように、優しくさらっと言われた『好き』が、ゆっくり心に染みてきて。
また涙が出た。
「…泣くなよ。」
抱き締めてくれる腕も優しくて。
あぁ、好きだなって。
そう思った。
「…蕾君は、その、、」
「ん?」
「き、キス…とか、したい?」
「……は!?」
顔を見ると真っ赤になっていて。
「ち、ちょっと待って。
突然なに?」
その顔を腕で必死に隠そうとしている蕾君。
「あ、いや…。
万桜たちがね、1か月で手繋ぐだけとか遅いって。
…蕾君、よく我慢出来るよなぁっ…て。」
少しの沈黙の後、蕾君が言う。
「まぁ、確かに…。
我慢してないかって聞かれたら、我慢してるっては答えるかなぁ。」
「そっ…か。」
「でもさ、我慢て悪いことじゃなくねぇ?」
「えっ?」
顔をあげると、頬に蕾君の手が伸びてきて。
「…陽月に触れたい、とか、キスしたい、とか、そうゆうのはもちろん思うよ。
好きなんだし。」
頬に触れる手から、蕾君の温かさが伝わってくる。
「でも、別に急がなくていいと思うんだ。…俺はこれからも陽月と付き合っていくつもりだし。」
両方の手で頬を包まれて、お互いのおでこをこつんと合わせた。
「無理矢理して、陽月を怖がらせたくないしな。
…俺達は俺達のペースで進んでいこう。
焦んなくていいよ。」
…どうして、蕾君の言葉はこんなにあったかいんだろう。
さっきまで押し潰されそうだった心がふわっと軽くなったのがわかる。
「…ずっと一緒にいような、陽月。」
この時の私達は、未来なんてわかるはずもなくて。
ただ、ずっと一緒にいられる、そんな根拠もない希望だけを持っていた。
もう歯車は、嫌な音をたて始めていたのに。