むとうさん
奈津美の言葉を思い出す。

"むとうって変わった名字だよね"

私がそれを不思議に思わなかったのも、聞き覚えがあったから…多分、父とおじさんがお酒を交わしていた話の中で、頻繁に出ていたのかもしれない。

私が今の仕事をしているのも、むとうさんが今の極道を選んだのも、同じおじさんがきっかけだった。

私が中高生の時、むとうさんとあの山崎家で入れ替わりすれ違っていたのかもしれない。そして、偶然にまたここで出会ったのだ。

新港埠頭で、色んなことを諦めていると言ったむとうさん…そんな背中を抱きしめることしかできなかった私。

どうして諦めているの?おじさんが教えた極道の世界では、むとうさんが求めていることは得られないの?

自分で作り上げたことがたくさんあると言ったことは?どんなことを作り上げていったの?

失恋して、自分のことばかりだった。私の話も聞いてもらいたい。だけど、今はむとうさんに聞きたいことがいっぱいある。
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