【短編】地味男の告白を断ったらS系俺様になって迫られました
「金澤さん嫌がってるじゃないか」

「いって、え?」

 無理やり腕を外されて小さく痛みを訴える幸春に、里桜は低い声で釘を刺す。

「春花に近付くんじゃねぇよ」

「っ! ……え?」

 前触れもなく豹変した里桜に目を何度も(しばたた)かせて驚く幸春。


 そんな彼を放って、里桜は春花の腕を引っ張り歩き出した。

「あ、相良くん!?」

 待って欲しいと声を上げるも、里桜は止まってはくれない。

 それどころか、掴まれている腕の力が強くなり少し痛かった。


 里桜は春花をそのままいつもの中庭に連れてくる。

 お弁当は? などと聞ける雰囲気ではなくて、春花は黙って付いて行った。


(何か、怖いよ……)

 里桜は怒っているのだろうか。

 初めて彼が豹変したとき以上の恐怖を感じた。


 そのまましだれ柳の木に背中を押し付けられ、春花の顔の横に里桜の肘が突かれる。

 以前の桜の木のときより顔が近い。

 眼鏡の奥の焦げ茶の瞳が怒り狂っているのが良く見えた。


「あいつ、何なんだよ?」

 低い声で凄まれ、喉が震える。

 だが、答えないともっと怖い目に遭いそうな気がして、春花は震える声で答えた。
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