【短編】地味男の告白を断ったらS系俺様になって迫られました
「あそこで待ってて」

 と由美に言われて来たのはすでに葉桜となってしまった桜の木の前。

 数週間前、里桜に告白された場所だった。


(これは……逆告白でもしろって事かな?)

 場所のチョイスに何とも言えない気分になる。

 だが、ここで良いのかもしれないとも思った。

(ここから、もう一度やり直すって気分にもなれるかな?)


 ちゃんと話を聞いて、仲直りして、あのしだれ柳の中庭に戻りたい。

 里桜との二人の空間を取り戻したかった。


 話し合いによっては逆に決別となってしまうかも知れないが、怖がっていては何も変わらない。

 春花はそう自身を(ふる)い立たせるが、やはり怖いものは怖かった。


 桜の幹に背を預け、スカートをギュッと握りしめる。

 怖い。

 里桜との距離が離れてしまうのが。

 もう二度と、あのしだれ柳の合唱が聞こえなくなるのが。


 弱気になってはダメだと思いながら、焦燥が広がっていく。


 何とか気を強く持とうと奮闘していると、心の準備が出来る前に土を踏む足音が聞こえて来た。

 足音が近づき、こちらに気付いたのか音が止まる。


 このままジッとしているわけにもいかず、おずおずと足音が止まった場所に体を向けた。
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