お前のために歌うから。
止めようと思って板を横にするけど、勢いづいていて、なかなか止まらず、バランスを崩してしまった。


視界が横転する。



「心菜!」


瞬が私の名前を呼んで、駆け寄ってきてくれた。



「大丈夫かよ?」


「あはは…大丈夫!恥ずかしいとこ見られちゃった」

あたしは照れたように笑う。



「立てる?」と手を持ってくれ、立とうとした瞬間、足に強烈な痛みが走った。

「いたっ」

左足を押さえると瞬が驚いてあたしを見る。


「心菜!大丈夫?」「大丈夫ですか~?」
茜と里緒ちゃんも心配そうに駆け寄ってくれた。


「あそこの一階に救護室ありますよ~」と里緒ちゃんが近くの建物を指差す。


「まじで?じゃあ行くわ」瞬は何の躊躇もなしに、あたしを抱きかかえた。



いわゆるお姫様だっこ…。

「瞬、待って…恥ずかしいよっ」

あたしは無性に恥ずかしくて彼の胸に顔をうずめる。


「何照れてんだよ」瞬は顔色一つ変えない。


 
あたし…おかしいよ。

ずっとこのままがいいなんて思っちゃった。





救護室に着くと誰も居なく、瞬はあたしをベッドの上に降ろした。

「ありがと…」彼の顔を見上げ小さな声で御礼を言った。

「…心配させんな、ばか」 

瞬はそう言うとあたしの頭をぽんと優しく撫でた。


「ごめんね」


「何かねーかな…お、いいのあったわ」


と、救急箱やら引き出しやらを開けて包帯や消毒液などを探してくれた。


瞬があたしの足首に包帯を巻いていく。


彼の冷たくて細い指が心地よくて思わず目を閉じる。


「ん、出来た」と満足げに言う彼。 


足首を見ると綺麗に的確に巻かれている。



「ありがと!でも瞬…何でこんなこと出来るの?」

「元バスケ部ですから」と言われると、確かにと思い納得する。


「でも、どんぐらいの怪我までは分かんねーから先生に聞かなくちゃな」

「そうだね」あたしはそう言って微笑む。



ふと目が合い、どちらとも喋らず時間が過ぎていく。


あたし…緊張してる。


瞬と二人きりなんて慣れてるはずなのに…

ほら、話題、話題…。


って何でこういうときに限って出てこないんだろ。


あたしは異様な空気に苦笑いする。
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