最も危険な  ルームシェア
私が滝野家の門をくぐったのが

二十一歳の時だった。

滝野家は代々医者の家系だった。

私はその豪邸のお掃除と洗い物を担当する家政婦の見習いで使われた。

「華、ただずまいだけは上流だよ。」

仕事の要領が悪い私は家政婦仲間にからかわれた。

私のあまりにも不慣れな動作を見かねた奥さまが

私を食事の配膳係に替えた。

食事の給仕なら自宅で散々目にしていた。

マナーにうるさい母を憎んだくらいだ。

ある日の夕食だった。

私は初めて滝野家のご当主に会った。

「華、慣れたかね?」

「はい、ありがとうございます。」

私は顔を少し伏せたまま静かに答えた。

使用人はご当主に面と向かって話してはならないとわかっていた。

自分が生まれ育った北城家ではそうだった。

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