even if
夏休みの保健室はさみしい。

たまに、部活中に怪我したり、軽い熱中症や貧血になって来る生徒がいるくらいで。

静かな保健室はがらんとしている。


『平井先生、来られてたんですね』


ノックの音がして、真っ黒に日焼けした桜井先生が顔をだした。

ジャージ姿がよく似合っている。

『桜井先生、焼けましたね』

『サッカー部の顧問してると、毎年こんなんになります』


桜井先生は、ははは、と声に出して笑った。
相変わらず、保健室が似合わない人だ。


『平井先生、今日よかったら焼き鳥いかがですか?…もし、予定がなかったら』

穏やかな笑みを浮かべたまま、桜井先生がそう言った。


『すみません、今日は予定があるんです』

ペコリと頭を下げてそう言うと、

『あぁ、いいんです、いいんです。急に誘ってすみません』

手を顔の前でパタパタと振りながら、慌ててそう言うと、桜井先生は、

『おっ、そろそろ戻ります』

腕時計をチラリと見て出ていった。





――予定があるんです――


私はひっそりと苦笑する。


暑い日の焼き鳥とビールにはそそられるものがあったのだけど。
桜井先生のことは、好きでも嫌いでもないのだけど。
本当は予定なんて、なにもなかったのだけど。


それでも、私は断った。


私が一緒にいたい人は、桜井先生じゃないから。




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